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今日から似顔絵捜査官

元警察似顔絵捜査官で今はプロの似顔絵師が昔を振り返った回顧録

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警察学校編/30

卒業式直前に、担任のデミちゃんの最後の授業があった。

デミちゃんはいつもクールなイメージで、冷静に物事を判断するというタイプだ。
適当にやればいいよというスエさんと、緻密で厳格なデミちゃん。
実にいいバランスだ。

最後の授業では、デミちゃんがこの1年間の出来事を訥々と語りはじめた。
そして、お世話になった多くの人達の恩を忘れず、一人前の警察官になることがその恩に報いることであると我々に諭す。

クールなデミちゃんにしてはなかなか熱い。
「上司がカラスは白いと言ったらそれは白いのだ。」と冷静な顔で言った人とは思えないじゃないか。
それほど熱い言葉が続く。

今から警察官として勤務するわけだが、臆することはなにもない。
1年間頑張って、やれるだけのことはやってきたのだから心配はいらないと。

そう言いながら、デミちゃんの両目からは大粒の涙が溢れていた。

なんと!クールなデミちゃんが泣いている。
意外な光景だ。
教場にいる全員が言葉を失った。
これは反則でしょ。
気がつくと、まわりからも鼻をすする音が聞こえてきた。

俺は今まで、小学校、中学校、高校と、卒業式を経験してきたわけだが、いずれのときも泣いたことはない。
何となく日々を過ごし、何をやるにも死に物狂いでやり遂げたことがなかったんだろうな。
だが警察学校の1年間は、今までの人生で間違いなく一番頑張った。
そう考えていたら自然と涙が出てきた。

まだ卒業もしてないのに、部屋中の者が号泣している。
男のくせに?
いやいや男泣きだよ。
男だって泣くときは泣くのである。



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警察学校編/29

警察学校は勉強もしているわけで、成果を見るためにテストもある。
ほとんどのことが初めて聞くようなことばかりなので、なかなか頭に入っていかず覚えるのが大変なのだ。

風呂から上がって夜の点呼までが自由時間。
普段はリラックスタイムになるのだが、テスト前だけはみんな黙々と勉強している。
学生時代にこれほど勉強した記憶はない。
警察官になれば勉強とは縁が切れると思って就職先に選んだのだが、この判断は大いに的外れなものだった。

科目が多すぎて自由時間だけでは不安になった。
希望者には就寝時間後も教場を開放し、好きなだけ自習することが許されている。
当直教官から許可をもらい、ぞろぞろと揃って教場に向かうのだ。
同期を見渡してもあまり勉強が好きそうな顔をしたヤツはいなかったが、ほとんどの者が教場で勉強していた。

しかし、中には勉強しなくてもテストでいい点取るヤツもいる。
同じ部屋のSは、有名進学校を出ていて、部屋で勉強しているのをあまり見たことはないのにテストの点数は毎回素晴らしくいい点を取る。
このSとは、校内をパトロール中にオバケから「頑張れよ~。」と言われた張本人だ。
臆病なくせに頭がいい。
頭の出来が違うのだから誰もマネできない。
我々凡人は、寝る間を惜しんで詰め込むしかなかった。

テストには全力で臨んだ。
耳から知識がこぼれそうなくらい詰め込んだ。
このテストの結果次第で一年間の総合成績が決まるのだ。
それはもう1番から54番までキッチリと決まってしまう。


そして、卒業の前についに成績の順位が決まった。


その結果、俺の順位は13番であった。
ん~、微妙。
決して悪くない。
54人中13番だから、むしろ良い方だ。
だからと言って、声を上げて喜ぶほど良くもない。
リアクションに困る感じである。

まあこんなもんだ。
今までの人生を反映するような実に中途半端な結果だ。
いいよ、いいですよ、悪くない。
1番がいれば13番もいる。
54番になって落ち込むことを思えば良くやった方だ。
うん、うん、よくやった。
と、自分自身を納得させた。

さて、後は卒業式を待つばかりだ。
その後は、いよいよ各々の赴任先へと巣立っていくことになる。




警察学校編/28

警察学校での期間も徐々に押し迫り、課題をクリアしないとヤバい時期になった。

入学時に1回もできなかった懸垂は、毎日の腕立て伏せ、そして二段ベッドの柵にぶら下がってトレーニングしたおかげで少しずつできるようになっていた。

いよいよ最後の体力検定に挑む。
その結果、なんとか10回できたー!
やったぜ俺。
おめでとう俺。
10回なんて大したことないと思われるかもしれないが、なにしろ0回からの10回である。
自分としては満足だ。

さて、これからが本番。
腕力がついてきたところで、最大の課題である柔道の昇段審査にチャレンジするときがきた。

前回あった昇段審査は、強い者だけが選ばれて特別に行かせてもらったものだ。
本来の警察学校での昇段審査は学校内で行われる。
つまり警察学校の学生同士で試合をして決めるということだ。
これはかなり有利だ。
不運なFのように中学生に投げられて肩を脱臼する恐れはない。

学校内の昇段審査では、まず四人一組に分けられる。
この四人が総当たりで試合をするので、一人当たり三人と対戦するということになる。
三人中二人に勝てば安全圏で合格。
最悪一勝一敗一分けだと、内容によってはギリギリセーフということだった。

強いヤツは前回の昇段審査で黒帯になっているので今回は出てこない。
同じ組になった三人は俺より小柄だ。
そしてなにより、M教官からは大外刈りしか習ってないが、こっそり部屋長のTさんから体落としという技を教えてもらっていたのだ。
懐に隠し持ったる秘密兵器である。
準備は整っているのだ。

さあ試合が始まった。
一人目とがっちり組み合った。
すぐさまこちらから仕掛ける。
大外刈りの体制となり、相手を後ろに倒そうと試みた。
こちらが大外刈りにいくことはバレバレなので、相手はグッと踏みこらえる。
そこをすかさず体落としで前にぶん投げた。
後ろからの前、これがかなりの効き目なのだ。
ズバンといい音をさせてみごとな一本勝ち。
早くも秘密兵器を発動させて瞬殺だ!

同じような流れで二人目も簡単に撃破!
三人目は苦戦したものの、形が崩れたところでうまく袈裟固めに入った。
寝技で一本!
危なげなく三連勝だ。
スポーツ嫌いの運動音痴が一年間の努力でここまでの成果を上げることができた。
上出来すぎるじゃないか。

同期同士で試合をするのだから、上手に八百長すればみんなボーダーラインを越えるように細工できたかもしれないな。
だがそんな余裕はないぞ。
ここで黒帯とっておかないとな。
すまんが君らは俺の踏み台になってくれたまえ。

だが、結局はみんな合格していた。
揃って黒帯だ。
八百長ではなく真剣勝負だったが、所詮はドングリの背比べ。
うまいこと勝敗が散らばったおかげである。
なんとなく肩透かしだな。
まあいいや、とりあえずめでたいことだ。
みんな一年間の苦労を振り返り、口々に歓喜の声を上げた。

…ただ一人を除いては。

同期の中でもかなり小柄なYだけが悲しくも三連敗だった。
一勝もできなければ救済措置がない。
たった一人だけ白帯のままになってしまったのだ。
彼はその後、ゲンポで警察学校に戻ってから再挑戦しなければならない。
落ち込むYを気遣うよりも、悪いが自分が黒帯になれた喜びの方が勝ってしまった。
そして、自分がそうならなかったことに安堵した。

Yよ、また頑張ればいいじゃないか。
応援しているからな。

なんという社交辞令的な励ましであろうか。
黒帯になった途端にこんなにも上から目線である。
我ながら嫌なヤツだな~。




警察学校編/27

季節は流れ、寒さ厳しい冬がやってきた。
寒いと何をするにも辛い。
朝の点呼などまだ夜明け前だ。
起きるだけでも辛いのに、山を走って登るなんて尋常じゃない。
だが、日課なのだからしかたがない。

冬だから雪も降る。
グランドに雪が積もれば走れなくなるので、それはそれで都合がよいことだった。
雪やこんこん、もっと積もれ~っ、てなもんだ。

そんなある日の柔道の授業でのこと。
グランドには結構な雪が積もり、とても寒い日だった。
道場にはもちろん暖房はないので、みんな身を縮ませて震えていた。

その姿が教官たちの怒りに触れた。
まず声をあげたのは、剣道の教官だった。
「今から武道の訓練をしようとする者が、寒いからといって縮こまっているとは何事か!」という調子で活を入れた。
そんなこと言われても寒いもんは寒いのである。
だが、怒られているのは剣道コースのやつらなので、空気を読んだ我々柔道コースの者は急に背筋を伸ばし平然を装った。

剣道の教官は更にヒートアップして、「気合いを入れれば寒さには負けない。」などとわけの分からん根性論を唱えながら、世にも恐ろしい悪魔の指令を発した。

「よし、今からグランドを走ってこい!」

えらいことになった。
剣道着一枚で雪の積もるグランドを走れと言うのだ。
しかも裸足で。

剣道のやつらはかわいそうだが、所詮は対岸の火事だ。
笑いを押し殺して剣道のやつらが道場から出ていくのを見送った。

その様子を見ていた柔道のM教官が大笑いをした。
こういうハプニングが大好きな教官だ。
嫌な予感はしていた。
そして、我々に向かって半笑いでこう言った。

「柔道の者もグランドへ行かんか、行かんか。」

出た!
M教官得意の「行かんか行かんか攻撃」である。
まあ、流れからするとそうなるわな。
半ば覚悟していた我々は、柔道着一枚で裸足のままグランドに向かった。

雪は冷たかったが、なんだか日常やらないことをやっているということに笑けてきた。
口々に「冷たい。」だの「むしろ痛い。」だの「感覚がなくなった。」だのと好き勝手に叫びながらピョンピョン跳び跳ねるように走っていた。
その姿がまた笑を誘う。
みんなゲラゲラ笑いながら走った。

警察学校の生活に慣れきって、毎日が惰性に陥ってきそうになっていたので、こういう刺激的なことがとても楽しく感じた。
寒かったが、雪の日のちょっとした思い出になった出来事である。



警察学校編/26

我が96期2班の担任のスエさんは、とても尊敬できる人物である。
警察の仕事は固い仕事で緊張することも多いが、緊張せず肩の力を抜いていけという教えだ。
やるときは一生懸命やり、やらなくていいときまで緊張する必要はない。
何事もメリハリが大事だよと言っていた。
そんなスエさんは、逮捕術の教官である。

逮捕術とは、その名が示すとおり犯人を逮捕するために考案された警察独自の格闘技である。
柔道、剣道、合気道、そして空手をミックスした感じの武術だ。
殴ってよし、蹴ってよし、投げてよし、時には長い棒を振り回して戦うこともある。
ともかく何でもありということだ。

スエさん自身、若い頃には逮捕術特練生として無敵の強者であった。
いわばレジェンド。
我々が出会ったときには、いつもニコニコしてる小太りのおじさんという感じだったが、強い人ほど優しくなれるということだろう。

だが、授業中は甘くはない。
かなりしんどい訓練でもニコニコしながらやれと言う。
あの笑顔に騙されてみんな頑張るわけだ。

逮捕術の授業は、試合形式でやる他に「型」のような訓練もある。
相手が腕を掴んできたら小手返しできめるとか、胸ぐらを掴んできたら脇固めできめるとか、決まった動きを何度も繰り返し練習するものだ。

何度かやってるうちに動きは覚えた。
毎回同じことをしていたので、そのうち飽きてしまった。
こんなお遊戯みたいなことをして実戦に役立つのだろうか?
途中から誰もが疑問を抱いた。
けれど、型の練習は毎回繰り返しさせられて、結局一年間ずっとやりとおすことになった。

まあ、きつい練習ではないし、スエさんがやれと言ってるんだからやっとこう。
それぐらいの意識であった。

こんな思いは完全に間違いであったと、俺が実際に交番勤務になったときに思い知らせれることになる。

俺が一人で交番にいたときのことだ。
若い兄ちゃんが訪ねてきた。
兄ちゃんは何も言わずカウンターの中に入ってこようとする。
それを止めようと兄ちゃんに近づいたとき、兄ちゃんの右手が振り上げられたのに気がついた。

兄ちゃんの手にはフォークが握られていた。

俺の頭に降り下ろされるフォークが、まるでスローモーションのように迫ってくる。
無意識だったが、そのときスイッチが入ったようだ。

我ながら見事な体さばきでスルスルと兄ちゃんの腕をとり、気かつくとキッチリ脇固めの形になっていたのだ。
それは紛れもなく、何度も繰り返し練習した逮捕術の型に他ならない。

あまりのスムーズな展開に自分が驚いた。
体に染み付いた動きが俺を救ってくれたのだ。
逮捕術をやってなかったら、今頃俺のオデコに3つの穴があいていただろう。

捕まえた兄ちゃんを調べてみると、鞄の中にカッターナイフが入っていたし、精神科でもらった薬袋も入っていた。
話す内容も支離滅裂だ。
交番を襲えと宇宙からの指令が頭の中で聞こえたとか。

警察官は、こんな理不尽な暴力に対峙している。
そのための逮捕術なのだ。
警察学校の訓練に無駄なことなどなかった。
実戦に役に立たないと思っていたなんでとんでとないことだったな。
頭で考えなくても体が勝手に反応できたのは、間違いなくスエさんのおかげである。
やっぱスエさん、スゲーや。
さすがレジェンドだわ。

そんなスエさんは、何年か前に退職してしまったのだが、その後に癌になってしまい天国に逝ってしまった。
良い人ほど早く逝ってしまうんだな。

今となっては改めてお礼を言うこいとも叶わないが、スエさんから教えてもらった肩に力を抜いたスタイルはこれからも受け継いでやらせてもらおうと思う。
でも抜き過ぎないようにしないとな。



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