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今日から似顔絵捜査官

元警察似顔絵捜査官で今はプロの似顔絵師が昔を振り返った回顧録

警察学校編/13

警察学校は、入校式の1週間前から前倒しでスタートする。
そこから敷地内にある寮での生活がはじまるのだ。
入校者の中には、何かの拍子についうっかり警察官を目指しちゃったなんて人もいるだろう。
入ってみたら自分が思ってたのとはかなり違うな~と感じた人もいるかもしれない。
そんな人達は、入校式の前にさっさと辞めてしまう。

無事に入校式が終わると、1か月間は外出禁止になるという規則がある。
警察学校の敷地内で1か月間缶詰め状態になるのだ。
衣食住はすべての与えられるので、生活するには不自由はないが、その他の自由は極端に制限される。
それに耐えられない者は辞めていくことになる。

1か月経つと、丁度ゴールデンウイークだ。
その間は暦に会わせて休日となり、はじめての外出(外泊)の許可が出る。
やっとのことで警察学校の敷地外に出ることができるのだ。

1か月間も外に出ないと、いったいどうなると思う?
世間がとても新鮮に見えるのだよ。
特に町行く女性が、全て絶世の美女に見えてしまうという現象がおきる。
女性とすれ違う度に何度も振り返ってしまい、我ながら恥ずかしかったな。
そして、久しぶりに実家に帰ることができるのが何より嬉しい。
だが気をつけないと、家に帰った途端に緊張の糸が切れてしまい、警察学校に戻らずにそのまま辞めてしまうことになる。

そこから1年間、警察官としての知識を詰め込み、厳しい体力トレーニングを延々と続けていく。
ちょっとしたことで教官から叱られ、時にはゲンポからも叱られる。
常に緊張感をもって生活し、気が休まらない毎日だ。
それに耐えられなかった者は、荷物をまとめて寮を出ていくことになる。

このように、警察学校に入った者は、
1週間
1か月
1年間
という節目ごとに、志半ばで退職する者が数人は必ずいると言われている。
教官からも

  もう無理だと思ったらすぐに辞めてもらって構わないぞ。
  その方がお互いのためだ。

と再三言われ続けてきた。
そのとおりだと思う。
まだ若いし、転職したとしても何とでもなるだろう。
辞めるのなら早い方がいい。
ひょっとしたら警察官の他に天職が見つかるかもしれないしね。
県警としても、多額の経費をかけて警察官を育てているわけだから、やる気のない者にはさっさと辞めてもらいたいと思うのも無理はない。

実際に、毎年節目ごとに辞めていく者が何人かいるという話を聞いていた。
去るものは追わず。
辞めることを誰も責めたりしない。
それなのに、我が初任科第96期生ときたら

誰一人辞めないのだ。

恐ろしくしぶといな。
叱られても飯食って寝ちゃえばすぐに忘れちゃう者ばかりだ。
良く言えばポジティブ。
悪く言えば能天気。
そんな者たちの集まりだったということだ。
ともかく、誰一人欠けることなく歩んでいけたことはたいへん喜ばしいことだ。



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警察学校編/12

運動漬けの毎日を支えてくれたのは食事である。
警察学校の食事は、朝昼晩全て学校内の食堂で用意してくれている。
毎食大量の食事を作らなければならないので、食堂の職員さんはたいへんだっただろう。

警察学校の食事は、基本どんぶり飯だ。
そしてどんぶり味噌汁。
朝は納豆やら、どでかいメザシやらが付く。
朝からみんなガツガツ食っていた。

思えば学生のときは、朝飯など食ったことはなかった。
ギリギリまで寝ていたかったし、寝起きで食欲もなかったしな。
だが、警察学校ではそんなこと言っていられない。
警察学校が体力勝負なら、勝負に勝つための武器が食事だということだ。

それに、テレビも見られないし漫画も読めない寮生活では、食べることぐらいしか楽しみがなかった。
特に金曜日の昼飯は楽しみだった。
週に一度のカレーの日だからだ。
カレーが大好きだということもあるが、カレーが出た翌日は土曜日だ。
土曜日になれば外出できる。
カレーを食べる=次の日外出できるという条件反射で自然とワクワクするのである。
まるでパブロフの犬だ。

その他にも、月に一度お誕生日会というのが昼飯のときにある。
その月に生まれた人だけに小さなケーキが出たり、そのときのおかずがステーキになるなど、ささやかな幸せ気分を味わえるイベントである。
ステーキといっても名ばかりで、パサパサした硬い肉だったが、学生にとっては随分なご馳走だった。

色々な料理を作ってくれた食堂のおっちゃんとおばちゃん、ごちそうさまでした。
毎日の食事が我々の血肉となり、頑丈な体を作ることができました。
改めてありがとう。
だけど、あの肉は本当に硬かったなあ。



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警察学校編/11

警察学校は体力勝負である。
様々な運動をしなければならない。
だが、運動は嫌いだ。
ほとんど運動はしたことがないと言っても過言ではない。

ところが走ってみると、意外にも他の者についていけたではないか。
なぜかはよく分からない。
今までは、走り方が分からなかっただけなのか。
ともかく奇跡に感謝である。

柔道や逮捕術に関しては、体格の良さが幸いした。
デカくて重ければ技をかけにくいからね。
それにほとんどの者が初心者だ。
他の者との差はそれほどなかった。

この調子なら無事に運動漬けの日々を乗り切れそうだ。
そう思っていたある日、体力測定が行われた。
100メートルの短距離走、1500メートルの持久走、ソフトボールの遠投、垂直跳び、走り幅跳び。
記録は悪いながらもなんとかなった。
問題は懸垂だった。

懸垂。
思えば学生時分に懸垂をやった記憶がない。
何回できるのが自分でも予測できない。
でも他の種目と同じようになんとかなるだろう。

だが、

なんともならなかった。


鉄棒にぶら下がり、体をもち上げようにもピクリとも動かない。
体が重い。
今度は体格の良さが裏目に出たのだ。
ぶら下がってるうちに握力はもう限界だ。
あえなく手を離す。
記録0回。

自分でも驚いた。
懸垂が1回もできないなんて。
記録0回の者は俺一人だった。

これは恥ずかしい。
そして情けない。
なんとかしなければと悩んだ。
いやいや、悩んだところでなんともならないぞ。
この日から、走ることの他に腕力をつけるトレーニングをすることが日課として加わった。

腕立て伏せはもちろん、暇があれば鉄棒にぶら下がりもがいてみた。
寝る前に、寮の二段ベッドの手摺にぶら下がったりもした。
卒業までには人並みに懸垂ができるようになってやると決め、毎日頑張った。

この時点での卒業までの目標。
1、柔道で黒帯になる。
2、懸垂を10回できるようになる。

分かりやすい目標だ。
やるしかない。
やってやる。
頑張れ俺!
負けるな俺!

懸垂が1回もできないようなヤツが警察官になれるとは誰も思わないだろう。
でも頑張ればちゃんと警察官になれる。
現になったもの。
世の中にできないことなど何もないのだ!
毎日やり続けることができたらの話だよ。



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警察学校編/10

警察学校の朝は早い。
夏期は6時、冬期は6時30分の起床だ。
起床時間になると、寮内のスピーカーから「エリーゼのために」が流れる。
警察学校のチャイムだ。
このメロディが聞こえるやいなや、急いで布団を畳んでグランドに走っていかなければならない。
点呼がはじまるのである。

点呼には、そのとき入校している全員が出席する。
我々初任科生、現任補修科生(ゲンポ)、そして専門分野の勉強をするために入校している専科生だ。
専科生は、一線で勤務している大先輩方である。
我ら初任科生が、ゲンポや専科生に遅れをとってはならん。
ちんたらしてたら後で何を言われるか分からない。
またグランド走らされたりしてはたまらないからね。

点呼は、各組の人員確認が主な目的である。
警察学校から逃げ出さずに全員いることが確認できれば、その次は警察体操というのを全員でやる。
警察が作った独自の体操で、警察官なら誰でもできる。
内容は、ほほラジオ体操と思ってもらっていいだろう。
じゃあ、ラジオ体操でいいのにね。

それが終わると専科生の中の一人が前に出て、体験談やら、アドバイスやら、自慢話やらをダラダラと話すコーナーがある。
ためになることを言ってるんだろうけど、まだ外で勤務したことがないので何も伝わってはこない。
だから、早めにスカッと話を切り上げる専科生には心の中で拍手だ。

そこまでで専科生は解散。
実はここからが、点呼の本番なのである。

その日の当直教官の指揮の下、そこから更に軽いトレーニングがはじまるのだ。
大体は、警察学校の裏山を走って登ることになる。
どのコースで登るかとか、どれだけの距離を走るかは、そのときの当直教官の気分次第である。

教官の中には、運動が好きでない人もいるし、自分が当直のときには楽をさせてやろうと思う優しい人もいる。
そんな時は軽めのメニューになるので嬉しいかった。
だが、柔道のM教官が当直になった日は、最悪の地獄メニューになってしまうので恐ろしい。

裏山は、山というより丘のように低かったが、走って登るのはとてもしんどい。
それに加えてM教官の日は、交代でおんぶして登れとか、ウサギ飛びで登れなど、オリジナルメニューが付け足されるのだ。
寝起きにやることじゃないよね。

朝っぱらからヘロヘロになって警察学校に戻り、すぐに掃除、そして朝食と続く。
朝は細かくスケジューリングされているので息つく暇もないのである。

でもね、
不思議なことに慣れたら普通になるんだな。
わりと早い時期に、日常のスケジュールとして苦労なくこなせるようになれたのはラッキーだった。
順応性バツグンである。
18歳のピュアな高卒青年だ。
何の疑問も持たずやっていたということだな。
というより、難しいことは何も考えていない単なるアホだった。



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警察学校編/9

警察学校生活の中でも一番苦労したのは柔道の授業だ。
なにしろ運動神経をどこかに置き忘れてきたような運動音痴である。
ここをこうすれば相手を投げられるんだぞと何度聞いても仕組みが分からなかった。
理屈が分からないのだから上手くいくわけはないのである。

俺を含めた多くの者は柔道初心者だ。
初心者に対し伝授される技は、体格にあわせて二種類に分けられた。
背の高い者には大外刈り。
背の低い者には背負い投げ。
一人一技を徹底的に磨いていく。
俺は大柄なので、大外刈りばかりを稽古することになった。

稽古していくうち、柔道とは一見荒っぽい競技ようだが、実は細かなプロセスを踏んでいかないと勝つことができないことが分かってきた。
引いたり押したりするうちに相手のバランスを崩し、体重が今どこにかかっているかを見極めることが大切なのだ。
そんな複雑な作業、簡単にできるわけがない。
なにしろ運動神経を置き忘れちゃってるわけだし。
しかも、俺がどんな技を使うのか相手にばれているので簡単には投げられないというのも痛い。
そりゃそうだ。
全員が大外刈か背負い投げの二つしか教わっていないのだから。

柔道を教えてくれるのは、加山雄三をプロレスラーにしたような大男のM教官だ。
若い頃やたらと柔道が強く、ヘッドハンティングで警察に入った猛者だ。
生徒がへばって動きがわるくなるとM教官から

やらんか、やらんか。
いかんか、いかんか。

と大きな声で激が飛ぶ。
変なところに力を入れるばかりの初心者たちは、すぐにヘトヘトになってしまう。
そうするとすぐに

やらんか、いかんか、

の声が飛ぶ。
やりますよ、いきますよ。
でも、こんなことを続けていて本当に強くなるの?
なかなか強くなれない自分が嫌になる。
終わりが見えない絶望感。
普通ならこのへんで、ポキリと心が折れてもよさそうなもんだ。

だが、運動音痴のこの俺が、意外にも闘志を燃やして頑張っていた。
その原動力になったことは二つある。

一つは、シンプルに強くなりたかったということだ。
昔から強い者への憧れがあった。
子供の頃、仮面ライダーに憧れ、アントニオ猪木に憧れ、ブルース・リーに憧れ・・・
とにかく強い者が好きだった。

もう一つは、努力すれば黒帯が締められるということ。
昇段審査に受かれば晴れて初段になれる。
初段から黒い帯を締める権利が与えられるのだ。
俺にとって黒帯は正に強さの象徴だ。
黒帯を締めた自分の姿を想像しただけでニヤニヤが止まらない。

こんな思いで毎日頑張った。
元来不器用なので、急に強くなれないということは分かっていた。
コツコツやるしかない。
だが、長くやってると必ず結果が出る。
このことは、柔道に限らず全てのことに当てはまることを身をもって学んだ。
警察学校で学んだ一番大事なことである。



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